木曽駒ヶ岳 2019.2 山の会やまづと

輝く山々の美しさと、仲間の笑顔、そしてヘリコプターのホバリングの音が忘れられない山行になりました。

今回は、初心者(私のこと)を連れての雪山入門です。二週間くらい前からメールのやり取りをしていました。

なにせ素人ですから家でのパッキングの時から、さて、雪山って何を持っていけばいいんだろう?と、ネットで検索しまくって大騒ぎです。

えっと、アイゼン持って、防寒具持って、帽子も必要だし、手袋もあったかいやつじゃないといけなし、お酒を忘れちゃいけないし、、、?

当日の朝は曇っていましたが、木曽駒ケ岳のロープウェイに近づくにつれ、だんだん空が高く、青い空が見えてきました。

下から見上げる千畳敷カールは、雪に覆われて光っています。あんな所に行くんだぁ、とテレビを見ているような、夢を見ているような感覚で現実感がありません。

まさか自分が行くとは本当だろうか、とここまで来てもまだ思っていました。

始発のロープウェイに乗って、千畳敷カールに着くと、ピーカンという言葉がピッタリです。透き通った空気と、陽に照らされた雪が輝いています。

既に先頭組は出発していました。

山岳救助隊の人たちを見たら心臓がドキドキしてきました。「昨日宝剣岳で二人滑落して、今日救助だって」という声がどこかから聞こえます。

昨日滑落して、今日救助じゃぁ、もうなくなっているんだろうなぁと思いました。山岳救助隊の人が、「上は凍っていますから、ロープを持っている人は積極的に使ってください。」と声を大きくしていました。

残念ながら私は、その意味を理解することなく通り過ぎました(いや、意味が分からないほうが、返って体が硬くならずによかったかもしれません。)。

私は何せ初めてのことでアイゼンを付けるのもえっちらおっちらで、なかなか準備が進みません。

一応家で練習はしてきたのですが、手袋をしているとまた違うものですね。そりゃそうだ、あったかい部屋でのんびり座りながら新聞紙を広げて試した程度で、同じことが雪山の中でできるわけがありません。

カールに出てみると、思ったよりも雪が締まっていて、ラッセルも必要ありません。それが問題なんだということに気づいたのは、山から下りてからのことでしたが。

千畳敷から少しづつ斜度が上がり、八丁坂に向かうと雪が凍ってきました。「アイゼンが刺さらない」という言葉は聞いたことがありましたが、こういうことを言うのかと思いました。

私はこの状態が危険なのかどうかの判断能力もありません。この時は特段怖さは感じませんでした。むしろ気楽なもので、前爪だけでも登れるんだなぁと楽しく思っていた記憶があります。

雪靴は底が堅いという理由が、ここでもよく実感できました。ピッケルの使い方をハレオさんに教えてもらい、なるほど、登山用のストックとは使い方が違うんだと初めて実感します。使い方の違いがわからないので、なんでピッケルって短いんだろう?と不思議に思っていたのです。

ピッケルが雪に刺さる感覚が面白くてワクワクしています。ピッケルって中途半端に短いよなぁと、ストックと比較して思っていましたが、こういうことだったんですね。

楽しんでいるうちに浄土乗越に着きました。ここから先は事前に言われていましたが、ものすごい風です。

私は体重が重いので、女性のように風でヨロケルようなことはないんだろうと思っていました。テレビで耐風(対風?)姿勢とか聞いたことがありましたが、自分には関係ないとも思っていました。

でも、この風はすごかったです。台風よりもすごいです。グワンと風の壁のようなものが押し寄せてきて、体が横に動きます。おぉ、すごいと感動しています。


すぐそばでヘリコプターがホバリングしていて、ものすごい音がしています。あの下あたりで亡くなった人がいるんだろうか、と強い風の音と共に思いました。また、ちょっとドキドキします。それでも、まだこの時は他人事だと思っていました。

ここから先は、登りが緩やかになった分寒い寒い。防寒具を着たいのですが、アウターを脱ぎたくはない。アウターは脱ぎたくないのに、セーターは着たい。こんな時って、皆さんどうしているんでしょうかね。

えいやっ!って覚悟してアウターを脱ぐしかないのでしょうか。

頂上に着いても寒くて寒くて物を食べる気にもなれません。みんな平気な顔をしてご飯をたべるので、私もサンドイッチを一つ食べましたが、具が半分凍っているのか、シャリシャリした触感です。

こんなの初めて食べたなぁと感じました。

後でヒマラーさんから「頂上で降りたそうにしていたね。」と言われましたが、あの時は止まっているのがつらくて、降りることしか考えませんでした。

で、帰りはじめた直後、いきなり私が滑落しました。凍ったところを行くので、体を斜めにして、左足を出したときに右足に引っ掛かり、あっと思ったときは空を見ていました。ピッケルを離した意識はないのですが、気づいたら手には何もなく、スケートリンクのようにツーっと滑って、全く止まりません。

スローモーションのように周りが見えます。空が青くて、岩が近づいてきます。岩がどんどん大きくなるのを覚えています。岩が見えたので頭だけはぶつけないようにと、妙に冷静に自分を見ているもう一人の自分がいた気もします。

どこを触ろうが、何をつかもうと思っても、ツルツルに磨かれたような氷の雪面で、まったく止まらず、勢いも衰えません。岩も氷に包まれていて引っかかりもなく、あっという間に私の体は岩の上を滑って超えてしまいました。偶然、ピッケルがどこかに引っ掛かって止まりましたが、ショッキングな体験でした。


半分放心状態でなんとか立ち上がると、ハレオさんが駆けつけてくれます(しかし、あの状態で「駆けつける」ってすごいなぁ、とこれを書いていて気づきました。)。こういう時に頼りになる人は、本当にありがたいです。

ザックを掴んでくれて、ようやく体が安定します。この時に、「いかにも山男」っというような感じの男性に声をかけていただき、歩き方のレクチャーを受けました。山岳ガイドかなにかをやっていたような方でしょうか?知らない人にも声をかけて教えてくださっていました。この方、ハッシーさんとお互いにブログをフォローしあっている方だそうで、後ほどブログを拝見することになります。

この滑落をしてから、急に体が怖さを感じるようになりました。

やはりそれまでは何が怖いかがわからないという状態だったと思います。そこから先は必死で、八丁坂ではハレオさんにロープをつないでもらいました。みんな後ろ向きになって、雪の壁を見ながらおりています。

私が下りるすぐ2〜3メートル横で滑落して骨折し、山岳救助隊の救助を受けている人がいました。ヘリコプターのホバリングの音が、やけに大きく感じます。次は自分か?という気になってきます。

本当に初心者コースなんだろうか、ここは?と思いながら、ハレオさんからも周りの山岳救助隊の人からも急ぐ必要ないからと声をかけてもらいます。

私も、ケガをすると自分にも周りのみんなにも迷惑をかけるので、とにかく一歩づつ大丈夫と思ってもあえてゆっくり、とそれだけ考えて下りました。

あとで聞いた話ですが、その時、私と並行して山岳救助隊の人がゆっくり下ってくださっていたようです。

私は、周りを見る余裕がありませんから、「やけに救助隊の人とすれ違うなぁ、遭難した人は大変なんだろうか?」と思っていましたが、なんと救助対象者は私だったようです。それだけ危なっかしい歩き方をしていたのでしょうね。


その時は降りることに必死で、目の前の雪の壁しか見えない状況です。上からハレオさんに、1メートル右とか左とか声をかけてもらい、その声だけを頼りにおりていました。あんなに寒かったのに、下りで汗をかいたのですから、よっぽどですね。

たぶん、キキさんやヒマラーさんの倍くらいの時間をかけたのではないでしょうか。結局、
250mか300mの下りに1時間をかけたことになりました。

斜度がゆるんで前を向いて歩けるようになり、ようやくホッとします。はぁぁっ、と思わずため息をついたのをよく覚えています。

ヒマラーさんがニコニコしていて、キキさんが手を振っていてくれていました。私も落ち着きを取り戻して、顔を上げるとハレオさんが笑ってくれます。僕もその顔をみて、やっと笑えるようになりました。

安心すると気分もほぐれて、雪山の綺麗さにやっと目が行くようになります。ただでさえ青い空が、抜けるような青に感じます。

あとは、ロープウェイを降り、温泉で体をほぐしました。全身の緊張がほぐれて、これほど幸せな温泉はないだろうと、ボーッとした意識の中で感じます。

帰りは、地元名物のソースカツで反省会です。仲間で集まって、こうやってほっとしている時間が一番楽しいと改めて思いました。

振り返ってみれば、幸せな夢のような一日でした。あの、この世のものとも思えない美しい景色を見に、みんな行くんだろうなと感じています。

ご一緒していただいたみなさん、ありがとうございました。

Home
中央アルプスの写真