水のある景色が好きだ。
2022年12月、沢登りがしたくて「やまづと」の仲間に入れてもらった。
例会でSさんに「体力がなければ沢登りはできない」と耳の痛いことを言われた。
悔しいので、次のシーズンまでになんとかしようと山に通った。
2023年3月、良い調子になってきたところでアクシデントに遭い、救急車で運ばれて死にかけた。
「晴天の霹靂」は日常にも転がっているのを忘れていた。
「九死に一生を得た」ことで、自分の中の価値観が大転換した。
沢登りをしておかないと、死んでも死にきれないと思った。
7月、Sさん、Yさん、Iさん、Kさん達が新人のために買い出しツアーを企画してくれた。
必要なギアの説明を聞きながら、シャワークライミングを想像して口元が緩んだ。
それから三ヶ月で6回を数える沢登り、沢歩きができたことに感謝と充足感。
大袈裟ではなく、生きていてよかった。
10月、今季の沢は終わりかと思っていたところ、Sさんが「泊り沢」を企画してくれた。
初めて沢の本を購入した4年前には、日帰りまでしか想定していなかった。
一人では想像もしなかった未知の世界へ、グングン引き込んでくれる仲間がいてくれるのが有り難い。
装備不足、日程調整、家族了承、体力不安、帳尻は後で合わせることにして、即答で参加を希望した。
Sさんが出してくれた山行計画、地図を元に想像を膨らませて準備を始める。
頼りにしていた同期のOさんは怪我で断念、自分以外は猛者ばかりになった。
経験値を高める目的に絞って「初めての泊沢体験」をすることにした。
荷物の準備に難儀することも、山行中不便があろうことも全て受け入れ「敗北主義」で臨むことにした。
28日の朝、集合前に身支度をしたいと思い、少し早く塩山駅に到着した。
ロータリーにはYさんの車が停まっていた。運転席の彼は、早朝にも関わらず起きている。
N坂さん、Sさん、N村さんが来て、5名全員集合。
道の駅みとみへ向けて出発した。
Yさんとの山行では、下山後温泉に行けるのが嬉しい。
事前のメールに「車出すので温泉道具は車に置いていけます」という有り難いお言葉。
道の駅から歩き出すと、YさんとN坂さんが今季の沢へ何度行ったかという話になった。
二人は25前後の数字で拮抗してしているそうだ。
それから、今回参加予定だったOさんは北アルプスへ行くのが夢だったようで、三ヶ月で実現してしまったそうだ。
7月の買い物ツアーで、大きなザックに重りを入れて背負い「これにします!」と言っていたのを思い出す。
Sさんは昨年の沢で怪我をして現在もリハビリ中。その話を聞いても、自分にはピンと来ないような良い動きをしている。
N村さんからは、以前沢でご一緒した息子さんの近況を教えてもらい、元気でいることに安堵する。
山の仲間は不思議な存在だと思う。
そして、他の団体は知らないけれど、やまづとには多種多様な人がいるのが好きだ。
やまづと(山苞:山から持ち帰るみやげ。山里のみやげ)という名前もチャーミングだと思う。
5年後、10年後、30年後、やまづとはどう変わっていくのか、その時自分は何ができるのか。。。
しばらく続く下りでは会話思考する余裕もあったけれど、装備を着けてからは修行専一だ。
荷物に耐えて、できるだけ遅れないように、滑らないように転ばないように、冷たくならないように濡れないように。。。
砂がつくと、岩場で滑る。荷物の大きさが気になって、岩場の移動がバランスよくできないのでは。。
上りでは息が上がって苦しい。。。
N村さんが前を行く時、距離が開きすぎないように常に気を配り、優しく声をかけ続けてくれる。
N坂さんが後ろから来てくれる時には、ふわりと後押ししてくれる。
しんがりを務めてくれるSさんは、足運びなどのコツを教えてくれる。
先頭を行くYさんはベストなタイミングで奮起を促してくれる。
暗くなり始めた頃「極上物件」にて幕営開始。
明朝まで使用する分量の薪を拾う仕事、タープを張る仕事に分かれる。
落ち着いたところで、靴を履き替え防寒着を着けて荷物整理。
火熾し、夕食の準備。
水場の近くで焚き火をすることは、炊事用水を汲みやすいだけでなく、翌日の後始末をする上でも重要だ。
Sさんは、原状回復を心がけていることをさりげなく教えてくれた。
夜は風上になるはずの山側に座っていたN村さん、呼吸も視界も失う程の煙に襲われていた。
Sさんが「焚き火の煙は、美男美女の方にいく」と言っていた。
N村さんおすすめの「ボンベイサファイヤ・カルピス」口にしなかったのを今も後悔している。
いいちこと「ちゃんぽん」になるのが不安だったのだ。
同じ理由で、N坂さんの日本酒も断っている。
お酒の強い人が羨ましい。
22時頃お開き、就寝。
Yさんがセッティングしてくれたタープは、向き、角度、高さが絶妙で、驚くほど快適だった。
初めてのタープ泊、嬉しくてなかなか寝付けないかと思ったけれど、誰かの寝息を聞いているうちに、フワフワしてきて入眠。朝までグッスリだった。
翌29日、5時にYさんの声掛けで起床。
先に起きて火を熾し、朝食の準備もしてくれている。
猛者たちは朝の準備もシュラフの片付けも手早く済ませる。
自分はもたもたしているけれどauもあり、快調。
優雅な朝の時間を過ごし、身も心も温まったところで出発準備。
濡れたウエア、靴下、靴を着用し、無言の行。
急な上りが表情を変えて次々現れる。
Sさんが試行錯誤しながら、不自由な足を運んでいる様子に「自分も負けずに頑張ろう」と、勇気をもらう。
N村さんは、ポンプ小屋までペースやルートを合わせてくれた。
Sさんは水源の水をボトルに汲んで美味しそうに飲んでいた。
N坂さんは最後のツメも軽やかに上っていた。
Yさんは甲武信小屋前のベンチで装備解除と休憩、荷物をデポして甲武信岳頂上に向かうと教えてくれた。
Yさんの発声でダッシュしたけれど、2mでこときれた。
N坂さんはあっという間に、見えないところまで行ってしまった。
遅い自分が申し訳なくて、先に行って欲しいと伝えた。
Yさんは「来るまで待っているよ」と言ってくれた。
ようやく皆に追いついて、歩いて来た谷の景色を望んだ。
「隠された、上からは見えないところを登ってきたんだ」と思った。
頂上までは全員一緒に歩いた。
標高2475mあるので、さすがに寒かった。
下りではYさんの後ろを歩かせてもらった。
走るように下っていた。
バランスを取るためには一定のスピードでリズミカルに動くのが良いように思った。
写経を思い出した。
Sさんは植物を楽しみながら下りていた。
N村さんは動物を楽しみながら下りていた。
N坂さんはお喋りを楽しみながら下りていた。
Yさんは修行を楽しみながら下りていた。
振り返ると、最初から最後まで「お荷物が荷物を背負って動いている」ような存在だった。
でも、誰もそれを責めることもなく、それぞれのスタイルで励まし応援し、助け、導いてくれた。
初心者の自分を下に見ることもなく、仲間として接してくれた。
皆さまのおかげで、これからの課題、改善策、夢や希望などが見えてきたように思う。感謝しかありません。
来年は3月から11月までの九ヶ月間で20回は行きたい!
行けば行くほど好きになる。
知れば知るほどハマっていく。
沢ヤッベェー、マジ最高。